世界の人が「能登町に出会う」新しいかたち
2022年がスタートしました。新年はいつも「新たな気持ちでチャレンジをしたい!」という気持ちになりますね。今年度ののと未来会議はこれまで通り「まだ能登町と出会っていない」「能登町に行ったことがない人」にも広く能登町に出会ってもらおうと、いろんなテーマで能登町の人をご紹介してきました。 今回は「滞在」がテーマの回。日本全国はもちろん、世界中から滞在に訪れる農家民宿群、「春蘭の里」の代表理事の多田真由美さんを迎えての開催ということで、世界中から参加者をお招きすることにしました。 のと未来会議が始まって以来、初めての日本語・英語の同時開催。当日は10ヵ国以上、約70名の方が集まってくださいました。
2022,1,18 のと未来会議 / Noto: Dialogue for the future
・オリエンテーション
・チェックイン:あなたの住まいのオススメの場所
・春蘭の里 多田さんのストーリー
・小グループでの対話 感想の共有と、自分から見えた視点について
・周りから見えたヒントやアイデア
・クロージング
今回のテーマは「滞在」! 今、改めて知る日本ならではの滞在とは
今回は能登町の滞在をテーマに、伝統的な農家民宿を体験できる農家民宿群「春蘭の里」の代表理事である、多田真由美さんに話題提供者としてお話いただきました。
多田さんの実家は生まれた時から家が民宿をしていて、常にいろんな人が家を訪れる家庭で育ったそうです。春蘭の里は文字通り、自然以外は何もないところ。田植えをしたり、泊まりに来た人たちと一緒に遊んだりとのびのび育ったものの、幼少期は自宅を自由に使えない環境が少し嫌だったようです。しかし、この多田さんの実家の1件の民宿が、まさに春蘭の里の始まりでした。
多田さんの父親が始めた「春蘭の里」でしたが、多田さんが中学生の頃、当時の皇太子が視察に来たことをきっかけに、当たり前にそこにあったものの価値を知ることになり、「これは途絶えさせてはいけない」と感じるようになったと言います。
その後、金沢の短期大学で観光について学び、能登町に帰省。2020年に代表理事に就任することになりました。
伝統の暮らし方を活かした「おもてなしのルール」
現在、春蘭の里には47の農家民宿があるそうです。ここまで数が広がり、1997年の設立当初から20年以上も続けることができている秘訣は一体何なのでしょうか。 それは、伝統の暮らし方を活かした「おもてなしのルール」を定めていることにあるようです。
1つは、宿泊者に泊まってもらうのは伝統的な建築様式で改築した農家民宿であること。地元の木を使って、地元の方が建ててくれた伝統的な「黒瓦、白壁、囲炉裏、大きな梁」がある家に泊まっていただきます。次に、1日1組限定というルール (例え1人のお客様であっても!)。 そして輪島塗の御前や手作りの箸などを使い、地域の食材だけを使って、化学調味料や砂糖を使わずに作られた食事を囲炉裏を囲んで食べる、という料理のおもてなしも定めています。
知恵を絞ってこれらを設け、滞在すること自体の体験価値を向上させた結果、開業当時は5,000〜6,000円の値段設定だった宿泊費を10,000円に高めることに成功したそうです。
このおもてなしのルールに基づいた品質を地域ぐるみで確保することで、現在では修学旅行など団体旅行が来訪するようになり、年間10,000人を超える方が訪れることになりました。
白い壁、黒い瓦の伝統的な建物が立ち並ぶ景観を残したいという地元の人たちの想いと、伝統的な建物での民宿体験をしたいという来訪者の気持ちが重なり、街の景観を残しつつ世界中から「春蘭の里」そして能登町に出会う場所となっているのです。
第二の故郷作りをしながら「現状維持」をしていきたい
こういったおもてなしの工夫はもちろん、広大な自然や初めての人にも家族のような優しさで接してくれる地元の人たちと過ごす時間は、時計の感覚を忘れるほどゆるやかで心温まる時間。訪れる人にとって「第二の故郷」とも呼べる場所になっているようです。
代表になった今、「これからやっていきたいこと」を問われたときに多田さんはこう答えます。
「現状維持をしていきたい。田舎の人は便利さや進化を求めてしまいがちだけど、田舎の大切なところは田舎であること。田舎であることの体験を求めて人はきているはずなので、それを大切にしていきたいです」
春蘭の里は、この地域にある「昔ながらの建物や暮らし、伝統を守っていきたい」という気持ちから地域が一体となって始めた取り組みです。この地域では、以前あったお祭りが無くなってしまうこともあったそうで、一度無くなったものを復活させる難しさを実感しているからこそ、「今あるものを大切に守り抜く」という静かな決意のようなものが響いてくるストーリーでした。
話題提供者のストーリーの動画はこちらでご覧いただけますので、ぜひご覧になってください。
オンラインの場におけるおもてなしのルール!?
今回は春蘭の里自体、海外からの訪問者も多いため、世界中の人が能登町に出会う機会を作りたいということから、初めて日本語・英語の同時開催をしました。
のと未来会議の運営メンバーでは毎回、楽しみながら参加してもらえるような工夫を取り入れるようにしています。例えば、運営メンバーはzoomの背景を春蘭の里の画像に変更したり、オンラインボードを使って「書く」ことで例えお互いの言葉を聞くことが難しかったとしてもその場に「一緒にいる」体験をしてもらうなど。今回はお名前や参加理由などの自己紹介を書いてもらったり「滞在」がテーマということで、自分の住んでいる場所のおすすめスポットを紹介してもらうワークを行いました。
そして、毎回のと未来会議を強力にサポートしてくれているのが、グラフィックレコーディングという話し合いやその雰囲気などをリアルタイムで、キーワード、色、シンボルなどで可視化していくスキルをもった人たち。今回は5名のグラフィッカーの方が多田さんのお話をリアルタイムで日本語・英語一気に描き上げるというチャレンジをしてくれました。
下記は、そのグラフィックレコーディングを見ながら、参加者が自分の中で響いたポイントに絵文字を置いているところです。
上記のような可視化に加え、今回はzoomのwebinar機能を使って、日本語のファシリテーターと英語のファシリテーター2人体制で実施しました。テクノロジーを活かしながら多くの人が、いろんな形式で参加できるような工夫が私たちなりのおもてなしかもしれません。
私たちは社会で何を、恩返ししたいだろうか
のと未来会議では私たちのこれからの豊かな暮らしのために、能登町で活動している方達のストーリーを聞きながら「自分の暮らし」についても気持ちを向ける時間にしたいと思い、開催を続けています。
今回の話題提供者の多田さんが高校生の頃「将来も能登町に残って住み続けたい人?」と問いかけられた時、クラスで一番最初に手を挙げたそうです。既に「この地域に恩返しをしたい」と春蘭の里を継ぐことを決めていたとのこと。
私たちは、生きてきた地域で、社会で何を恩返しできるのでしょうか。今回ののと未来会議会議は、そんな問いかけが心に残る時間になりました。