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のとがはじまるコラム

ATION COLUMN

島田由香

能登の自然や人々に触れたとき、本来自分があるべき姿を取り戻せた気がしました。

働く場所や時間を社員が自由に選べる人事制度(WAA)を導入するなど、従業員に合った新しい働き方を推進する「ユニリーバ・ジャパン」取締役人事総務本部長の島田由香さん。ワーケーションで訪れて以来「能登の魅力にどっぷりハマってしまった」という島田さんが、今考えていることとは?

能登の神秘的なエネルギーに惹かれる

能登町との出会いのきっかけは?

最初に訪れたのは2021年の9月。能登町で開催されたローカルベンチャースクールに講師として招かれたのがきっかけでした。

初めて訪れた能登はどんな印象でしたか?

驚くことがたくさんありました。まず、想像していた以上に近いこと。これまで月の半分を「ワーケーションの聖地」として知られる南紀白浜で過ごしていたんですが、東京からの距離と自然に囲まれた環境が似ていて「これはアリだな」と思いました。

羽田から能登空港まで飛行機で1時間弱。たしかに南紀白浜とほとんど変わりませんね。

そうなんです。それと能登という土地のエネルギーや空間が持っている温かさにも感動しました。なんて神秘的で奥深い場所なんだろうと。うまく表現するのは難しいけど、あちこち回るうちにズレていた自分の軸が真っ直ぐになった気がしたんです。

【photo by @Blue Label】

能登のどんなところに神秘性を感じましたか?

独自の文化や風習が残されていること。田んぼの神様を自宅に迎え入れて冬を一緒に過ごす「あえのこと(奥能登の農家に古くから伝わる農耕儀礼。2009年にはユネスコの無形文化遺産に登録されている)」の話を聞いたときは、自然や神様と共生する暮らしのあり方と、そうした伝統が各地域に存在していることに驚きました。

お祭りなどの伝統行事が暮らしに息づいているのは能登ならではですよね。

そうですね。それと印象的だったのが、自然と調和する建物の美しさ。九六間(くろっけん)と呼ばれる農家住宅の造りには、能登の人たちの美意識の高さを感じました。

そのほかに興味をもった能登の文化や伝統はありますか?

縄文文化をワーケーションに取り入れてみるのは面白そう。真脇遺跡の背後に広がる縄文文化から、私たちはなにを思い出すか…。これからの時代を生きくためのマインドセットを醸成する、トレーニングの場にもなりそうです。

縄文真脇遺跡

頭を空にして、自分と向き合う

なぜ、能登町でワーケーションをしようと思ったんですか?

九十九湾にある「のと海洋ふれあいセンター」を訪れたときに、ここでワーケーションをしてみたいと思ったんです。

どうしてですか?

私がワークプレイスを選ぶときに重視するのは、パソコンの先に何が見えるかということ。その理由は周辺視野に入るものが脳に大きな影響を与えるからです。たとえば脳科学では、自然や緑が視界に入ると前頭葉が活性化することが分かっています。自然が多い場所でのワーケーションは科学的にも効果があるんです。

たしかに九十九湾の景色を眺めていると、心が研ぎ澄まされた気分になります。

ワーケーションを推奨する理由のひとつに「vacateな体験ができる」というのがあります。ワーケーションは、仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語というのはご存知だと思いますが、私はバケーションに含まれるvacateの要素こそ、ワーケーションに必要だと考えています。

vacateとはどういう意味ですか?

「空っぽになる」という意味です。頭を空っぽにすると、自分に意識が向いて、気持ちが整理される。それによって、今まで気づかなかったことに気づけたりもします。観光気分ではなく、自分自身を見つめ直すワーケーションが理想的。能登にはそれができる資源がたくさんあると感じています。

ちなみにワーケーションしやすい宿や施設の条件ってなんでしょうか?

3種の神器が揃っていること。Wi-Fi、電源、あとは美味しいコーヒー。

コーヒーなんですね。

そうそう。息抜きできるポイントが近くにあることは大切です。すでにある施設でも、なにかを増設したりする必要はなくて、机を海の見える窓際にセットするだけでも立派にワーケーションに適した空間になるんですよ。

九十九湾の海岸沿いを歩く 海洋ふれあいセンター

ワーケーションを成功させるコツを教えてください!

いかに地域の人たちと触れ合うかですね。事業者さんでも住民の方でも、つながりができることで「あの人にまた会いたい」となります。ワーケーションはリピートしないと意味がないと思っていて、私自身も能登町のフィールドワークで知り合った仲間と会いたくて、2回、3回と足を運んでいます。

島田さんは、能登が世界農業遺産である点にも注目しているんですよね?

そうなんです。ワーケーション先の和歌山で「世界農業遺産に認定されたみなべの梅と、同じく世界農業遺産である能登の里山里海で作られた塩とのコラボ商品を作っている」という話を聞いて、自分でもなにかできないかと思ったんです。

世界農業遺産の梅と塩のコラボですか。面白そうですね。

世界農業遺産に登録されている日本の11地域の中でも、最初に登録された能登にはポテンシャルの高さを感じています。世界農業遺産×ワーケーションという形で、この11地域のネットワークを広げられたら面白いですよね。

そもそも島田さんはなぜ、地方へと目を向けるようになったんですか?

生まれも育ちも東京で、子供の頃は夏休みが明けると真っ黒になって登校してくる友達がうらやましく感じていました。もしかすると、そういった体験を今になって求めているのかもしれませんね。

能登というフィールドはそうした体験に適していると。

そうですね。日本人の心の奥に潜んでいる原風景がここにはあって、ワーケーションをしながら「自分が本来あるべき姿に戻っている」と感じたのも、そうした部分に触れたからではないかと思います。

海と森を守るため、能登キコリをプロデュース

島田さんは4月に能登町での起業も予定されているんですよね?

そうなんですよ。能登キコリをプロデュースする会社を作りたいと思っていて。

どうしてまた、能登キコリをフィーチャーしようと思ったんですか?

能登の里海を守るためには、森のエコシステムを維持する必要があります。そういった取り組みを活性化させるために、能登キコリをブランディングして能登の林業を盛り上げたいと思ったんです。

具体的にどんなことをするんですか?

ジュニアキコリ制度を作って遊びをプログラム化するなど、能登町にワーケーションしに来た人が「木こりをやってみたい」と思えるような仕組みを考えています。

面白そうですね!

能登町にはフリーで活躍されているキコリが実際にいて、彼らとの出会いもこのプロジェクトを立ち上げるきっかけとなりました。やっぱり人との出会いがワーケーションの醍醐味なんですよね。

能登キコリをプロデュースプロジェクトが始まります!【photo by @Blue Label】

ワーケーションによってセルフリトリートを実践するだけでなく、森のリトリートにまで活動の場を広げている島田さん。今後どうやって能登町と結びついていくのか、動向が楽しみです。