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のとがはじまるコラム

ATION COLUMN

大路 幸宗

地域の人との交流を重ねるうちに、いつのまにか能登町が新しい故郷になっていました。

「22世紀に日本文化を継承する」をテーマに地方創生に取り組む「株式会社 文継」の大路幸宗さん。北は北海道から南は五島列島まで、複数の拠点を行き来しながらワーケーションを実践しているそうですが、能登町ではどのような過ごし方をしているのでしょうか。

ものを大切にする野鍛治の文化を継承

「株式会社 文継」では、どんな活動をされているんですか?

多くの人たちが日本文化に携わる社会を目指して、世界中の地方創生事例を紹介しながら、日本文化の担い手である事業者を支援しています。

全国各地にワーケーションの拠点があるんですよね。

はい、北海道では利尻昆布の生産者さん、長崎県五島では練物工房の支援を。ほかにも山口県や静岡県そして石川県能登町など、自分の好きな町で活動を行なっています。

能登町にはどういった経緯で訪れるようになったんですか?

地方企業と都市部の人材をつなぐマッチングサービスを利用して、宇出津にある「ふくべ鍛冶」さんを紹介してもらいました。

包丁研ぎや金物修理で有名な野鍛冶屋さんですね。なぜ、お手伝いをしようと思ったんですか?

僕自身が能登という場所に興味があったのと、代表の干場さんの「ものを大切にする野鍛冶の文化を後世に継承したい」という想いに共感して、一緒になにかできないかと思ったんです。

ふくべ鍛冶のみなさんと。

具体的になにをされているんですか?

僕の得意分野である営業企画やマーケティングを中心に、最新のデジタルコミュニケーションツールの導入、鍛治職人の採用ページの構築、包丁研ぎサービス「ポチスパ」の販促活動など、会社経営を総合的に支援させていただいています。

ふくべ鍛冶との関わりで、感じたことはありますか?

民間企業でありながら、地域のことをよく考えている姿がとても印象的でした。東京では自分が働いている区のことを考えている人はどれだけいるのか。自己利益の追求だけでなく、その仕事が地域にとってどんなメリットがあるかも考える。そういった視野の広さにはとても惹かれます。

鍛冶職人さんとも交流を深めたそうで。

地域や能登に対してなにかをしたい、物を大切にする文化を後世に伝えたい。職人さんと話をしていても、このふたつの理念が社内に浸透しているのがすぐに伝わってきて、みなさんが生き生きとして感じられました。

素晴らしいですね。

ミッションドリブンによって理念に共感した人が集まり、企業同士のつながりが生まれる。そんな未来を自分の好きな町で作りたい。ふくべ鍛冶さんとの出会いは、そんな目標が生まれるきっかけにもなりました。

ワーケーションが与えてくれるもの

大路さんは「株式会社 文継」以外にも、本業をお持ちなんですよね。

はい、普段はAIやGISを活用したドローンのソフトウェア会社に勤めています。

ワーケーション滞在時に本業のお仕事をすることもあるんですか?

リモートセンシングは地方創生に欠かせない技術なので、合間の時間でサービスのご紹介をすることはあります。

もしかして、飛び込み営業をかけたりするんですか?

いえいえ。支援する事業者の方々が僕を気遣って、ニーズのありそうな業者さんを紹介してくれるんです。それによって本業とも折り合いがついて、よりワーケーションがしやすくなる。本当にありがたい話です。

なぜ、ワーケーションをするようになったんですか?

やはりコロナの影響が大きいですね。もともと自由に働ける会社だったのですが、お客さんとのやりとりがリモートワーク前提となったことで、以前よりもワーケーションがしやすくなりました。

キャベツの生育診断_ドローン写真をAIで解析しています。

大路さんにとって、ワーケーションをするメリットとはなんでしょう。

非日常的な環境に身を置くことで、新しいアイデアが生まれやすくなる。これは僕の性格による部分も大きいのですが、これまでも同じ場所に留まるよりも週単位で居場所を変えた方が、いい提案ができていた実感があります。

たしかに、旅行先でふと良いアイデアが浮かんだりしますもんね。

そうですね。日常にはない自然や景色、都会では出会えない人。そういった地方がもつポテンシャルによって、普段の生活に対するモチベーションが維持されている気がします。

そもそもなぜ、地方に目を向けるようになったんですか?

大学時代にオランダへ留学をしたり、バックパッカーとして世界50カ国を回ったりと、もともと海外志向の強いタイプでした。それが様々な国を訪れるにつれて、日本文化の魅力を再認識しまして…。そして、その魅力は都会よりも地方にこそ存在すると思い始めたんです。

それはなぜですか?

資本主義的な生活を送っているという意味では、東京や大阪などの都会は本質的にニューヨークやパリといった大都市となんら変わりがありません。一方で、日本の地方には都会にない個性がある。伝統、風習、祭り、食文化。世界中を旅行しても得られなかった、強いオリジナリティを感じたんです。

エクアドルの赤道上から

能登町は、僕にとっての新しい故郷

能登町の「街として」の印象はどうでしたか?

農山漁村に育まれた食文化と自然の豊かさは、都会で暮らす人間なら誰もが感動すると思います。囲炉裏で焼いて食べたカキの美味しさは、今でも強烈に記憶に残っていますね。

いつもはどういった所に宿泊しているんですか?

ふくべ鍛治の干場さんが、僕を喜ばせようと毎回違う宿をおさえてくれるんです。とくに印象的だったのが岬にある田の浦荘。窓を開けると静かな海の景色が広がって、思考が研ぎ澄まされた感覚になる。絵画のように切り取れる自然がそこかしこにあるのが能登のスゴさだと思います。

大路さんが今もっとも興味がある能登の文化といえば?

お祭り文化ですね。「町の伝統を後世に受け継ぐ」というのは、都会暮らしではあまり得られない感覚。とくに宇出津のあばれ祭りにはぜひ行きたくて、すでに今年のスケジュールはおさえてあります。

疫病退散!今年は無事に開催されることを願いましょう。

そうですね。それともしご縁があれば地域文化であるお祭りを、地元の方々の聖域を汚さない範囲で、観光的な側面から支援できたらとも思っています。

あばれ祭り(毎年7月第一週の金・土に開催)

能登町でのワーケーションで、不便に感じることはありますか?

羽田から能登まで1時間弱で行けるとはいえ、やっぱりハードルの高さは否めませんね。

どのへんにハードルの高さを感じますか?

能登に着いてからの移動はレンタカーが必須なので、まずはコストの問題が出てきます。そもそも運転免許がないと話になりませんし、モビリティの進化も重要な課題なのかなと感じています。

インターネット環境的にはどうでしたか?

そこらへんは不便に感じたりはしませんでした。フリーWi-Fiのコワーキングスペースもあるし、今のところ仕事面での支障はなさそうです。

コワーキングスペース NOTO CROSS PORT

最後に、大路さんの「能登がはじまっちゃった」瞬間を教えてください!

ふくべ鍛冶さんの支援をきっかけに人の輪がどんどん広がって、能登町を訪れたときも「ひさしぶり」なんて声をかけられたりして。そんなときは「あぁ、はじまったかも」という感覚になりましたね。

アウェイからホームになった瞬間ですね。

新しい故郷ができたというか、右も左も分からない土地だったのが、訪れるたびに知り合いが増えて、どんどん居心地が良くなっていくんですよ。ワーケーションをする理由は人それぞれあるけど、僕にとっては「地域の人と心がつながる」という体験も、ワーケーションの醍醐味だと思っています。

自然豊かな場所でパソコンに向かっているだけじゃもったいないですもんね。ちなみに地域の人とのコミュニケーションで意識していることはありますか?

まずは、経営支援や地域活性の面でしっかりパフォーマンスを発揮して信頼を得ること。それを踏まえた上で、地方に対して心からリスペクトするマインドセットを整える。お祭りなどの文化風習に対する尊敬の念、都会の台所を支えている農業や漁業への感謝など、そういった気持ちが根底にないと地域の人たちとの交流もままならないような気がしています。

地方と都市は対等にあるべきという考え方ですね。

都会と地方は分業体制。どちらが偉いとかではありません。地方の人たちが第一次産業を支えているからこそ、都会の人たちは第三次産業に集中してデジタルな知識を蓄積できている。僕は大根一本も作れないし魚一匹も釣れませんが、その代わりにこれからも都会の生活で得たスキルを、ワーケーションという形で地方に還元させたいと思っています。

デジタル×アナログの力を活用し、能登に伝わる野鍛治文化の発信に力を注いでいる大路さん。そのなかで大きな原動力となっているのは、地域の人とのコミュニケーションだったようです。